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鳥取市肢体不自由児父母の会 発行

強く 明るく すこやかに あけぼの

1994.10 NO.19 ​ 3~6頁

「尊敬、「信頼」、「協力」

鳥取県立鳥取療育園

園 長  大谷 恭一

 鳥取県立鳥取療育園が開設されたのは、県立中央病院が江津に新築移転されたときと同じく、昭和 50年 6 月です。開設後、早 20 年目を迎えました。
 今年、平成 6 年 7 月 7 日に 20 周年記念行事を行い、お世話になってきた方々のご列席とメッセージをいただいて式典を挙行し、鳥取大学神経小児科の竹下研三教授には記念講演をしていただけました。
 また、当日には、鳥取療育園のうた、“今あなたとわたし”の発表をして、みんなで歌いました。歌詞を末尾に付けています。“あなた”は子どもたち一 人ひとりで、“私”は職員や保護者があてはまります。あるいは、“あなた”が保護者や仲 間の職員で、“私”は職員である私など、いろいろな場面、立場で置き換えてみることができましょう。当日、「尊敬」、「信頼」、「協力」を大切にしたいことを、園長として、私は 願いを込めて述べさせていただきました。
 障害の有無にかかわらず、命を尊重し、ともに生きる、ともに学びあうことは、福祉の原点といえます。そのことは、障害の性質や、軽重、そして、年齢にかかわらず、普遍性のあることです。もちろん、療育を受ける側の人、施す貴務を担っている人という役割をこえた、人と人の出会い、そして、「尊敬」、「信頼」、「協力」が原点に備えられるべきであると確信できるのです。
 そうした原点を大切にして、20 周年を経過した療育園の今後のあり方、地域において果たすべき役割を考えて行きたいのです。障害があるからとて、本人はもとより、保護者、家族の心が不健康であっては困ります。当然、地域社会が健康であることが大切ですが、そのためには障害の正しい理解が欠かせません。障害を理解することは、実は、健康を正しく理解 することと表裏一体です。ご承知のようにWHO は、健康を 3 つの要素で定義づけています。 身体的健康、精神的健康、社会的健康の 3 つですね。ところで、あなたは身体的に健康ですか? 自信を持って肯定できる人は少ないのではないでしょうか。身体的健康だけでも厳密 にとらえると、とても難しいことが分かります。
 精神的健康に関しては、「尊敬」、「信頼」、「協力」がキーワードとなり得ましょう。相手を尊敬できること、もちろん身体障害などの有無にかかわらず、生きている人の命そのもの、存在自体を尊敬できることは、精神的健康の重要な要素となります。目の高さが、自然と等しくなることでもありますね。相手を信頼することも同様であり、かつ、相手と協力し あえることも、精神的健康には欠かせない要素です。
 私たち“人間”の文字の意味するところは、“人”は手を携え支えあっていることを示し、そして、少しの距離を置いた“間”があって、そこに「尊敬」、「信頼」、「協力」の阕係が育まれることが願いでしょう。療育園においても、「尊敬」、「信頼」、「協力」を“子どもたちと職員”、“保護者と職員”、そして、“子どもたちと保護者”の間で、“職員間同士”で、育みたいのです。
 そうしたあり方が、地域に対して、現代日本に欠けがちな、かけがえのない大切な命のメッセージ、健康のメッセージを贈ることにもなります。社会的健康は、障害者と家族に与えられるばかりのものではありません。社会に対して、健康の大切さをメッセージとして届ける役割を、療育園が、職員が、子どもたちと保護者が担っているのです。社会的健康は、地域社会に住む一人ひとりが産み出していくものだと思います。いわば、地域に対して“障害児からのメッセージ”を届けることは、社会的健康を育む重要な要素だと考えます。
 上記のことと合わせ、療育園職員、チームの専門性を高めることなど、療育、障害児保育 に求められるものについて、要素ごとに、医療の世界での例を対比させて以下に記してみました。

 本年 4 月には、県庁で機構改革がなされ、福祉、医療、保健が一つの部に所属することになりました。
 医療の世界は、日進月歩です。私も、県立中央病院で、新生児医療や骨髄移植 など、先端医療を導入し、その一員として加わってきたのですが、今後は、福祉、とくに療育の分野も例外ではありません。療育園職員一人ひとりが、鳥取県職員として、しっかりとした見識と、専門性を育み、がつ、チーム医療ほか、上記したことを承知して臨みたいと考 えます。
 ところで、開設 20 周年に関連して、思い出に残る貴重な機会に恵まれました。8 月 3 日“ウィーン•オペラ•少年少女合唱団”総勢 40 数名が、私たちの園を訪れたことです。彼らは、世界一流のウィーン国立歌劇場と専属契約しているほど、評価の高い合唱団で、過去 にも、そして今年も日本各地で演奏会を開催して来られ、当日夕方は鳥取県民文化会館“梨花ホール”での演奏会に先立ち、鳥取療育園を訪問し、園児とのふれあいの集いを持っていただけたのです。

 集いでは、療育園で歌っている手遊び唄を披露し、共に手を取り合って歌ったり、ウィーンにおける幼児をあやす歌遊びを合唱団指揮者のツィグラーさんに紹介していただき、さらに、共にボールゲーム等に興じたりしたあと、ウィーン•オペラ•少年少女合唱団のすてきな、美しい心温まるハーモニーを拝聴しました。

 お願いしていた予定の 3 曲が、5 曲と増えて、私たちの心に広がりました。療育園の子どもたち一人ひとりに、ウィーンの少年少女からプレゼントがありました。

 さらに、ツィグラーさんから、小児病棟でも歌いたいとの提案があり、中央病院ロビーにおいて、小児病棟の子どもたちほか、多くの入院患者さんや職員に聞かせていただけました。
 NHK テレビのインタビューにお答えになったツィグラーさんの言葉が印象的でした。概要はこうです。

 「日本で初めて福祉施設を訪問した」、そして、「健常でない子どもたちが療育をがんばっているのに、私たちは何ができるかを考えると、歌だ。心を一つにして歌い、それをぜひ皆さんに闇いていただくことだ。私たちにとっても、とても有意義な時間を過ごさせていただいた」ということでした。

 療育園において、療育園の子どもたちと触れ合うことで、指導者のツィグラーさんのみならず、ウィーンの少年少女も何かを感じてくれたことと思います。
 なお、8 月 3 日にウィーン•オペラ•少年少女合唱団が鳥取療育園を訪問されたことについては、“とっとリ楽友協会”を主宰して治られる谷□十三生氏のご好意により実現いたしました。この場をお借りして、御礼申し上げますとともに、鳥取における音楽文化の向上、とくに青少年に良質の音楽をと願って活動されている谷□氏と“とっとり楽友協会”のご発展をお祈りいたします。

2018 年 4 月 整理をしていて見出し、[智頭病院小児科医の書庫]《温故知新》に up しました。2018/5/28

 

書式等を改めて、2020/6/22 に up

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