「子どもの虐待対応と医療機関の役割」 鳥取県小児科医会報用原稿/掲載
(2001年8月24日記)
子どもの虐待対応と医療機関の役割
はじめに
CAPTA(キャプタ)こと、NPO子どもの虐待防止ネットワーク鳥取(child abuse prevention Tottori association)に関わった関係から、平成12年12月に名古屋市で開催された小林 登会長(東京大学医学部名誉教授)の「子どもの虐待防止研究会第6回学術集会」に出席した。会場で名古屋市が作製した「医療機関用・子どもの虐待防止マニュアル」(平成12年11月27日発行)を拝受した。内容の重要性を評価し、鳥取県福祉保健部長に提言した経緯から、鳥取県でも作製することが昨年度末に決定した。
愛知県も平成12年12月に、名古屋市とは別個に医療機関用子どもの虐待防止マニュアルを作製していた。これらやCCAP(子どもの虐待防止センター center of child abuse prevention)のホームページにある医師向け情報等も含めて、作製準備を進めてきた。
平成13年度になり、県医師会理事・岡空謙之輔先生を委員長として、作製委員会が発足し、福祉保健部に属する鳥取療育園長を兼務している立場から、小生も委員として執筆を担うことになった。本稿執筆時点(平成13年8月)では、まだ、各機関に草稿を呈示している段階であるが、自身が学び得たことを列記した。
虐待防止連絡体制と医療機関の特殊性
虐待防止マニュアルは多々あるが、多くが総論的であって、地域的な背景を踏まえた実践的な内容には至っていない。各医療・福祉圏ごとの実際的なネットワーク体制を構築して、簡潔明解に図示し、冒頭に配置することが肝要と心得ている。一方で、<医療機関用マニュアル>であるがゆえの特性を関係者が共通理解しておく必要がある。(以下、順不同)
1 厳格な守秘性
通告(連絡・通報)したことが、万が一漏洩すると、医業妨害になりかねない。即ち、「あの医者は虐待でもないのに虐待だ云々と個人の情報を漏らす!」などの風潮が怖い。関係する公務員の姿勢(専門性)が整わないと医療機関は協力出来ないことになる。
マニュアルの要は、法的な権限からして「児童相談所:所長」にある。万が一情報が漏洩したら、そのネットワークの責任は児童相談所長が担っているが所以である。
一方、本マニュアルが実践できないようであれば、今後の希望が乏しくなる。児童相談所長をはじめとした関係機関の公務員は、厳格な守秘性を実践出来ることこそが『公務』である。
2 医師の多忙な診療の日々において、通告に関する煩わしさを極力軽減すること
:第一報を済ませたらお役御免でもOKと出来るシステムとすること
場合によっては、県福祉保健部所属の医師がその後を引き継ぐ。児童相談所に医師がおればベストだが、鳥取県の現状では望めない。せめて、“実質的な兼務”等を検討すべきだろう。
ただし、明らかな身体虐待であり、かつ、入院を必要としない外傷の場合は、診察医の診断書を求めることがあり得る。一方、入院を必要とする外傷の場合は、該当病院の主治医(ないし部長等責任医)の診断書を求めることになる。
そして、上記の診断書は必ずしも「虐待であること」の診断書でなくて良い。虐待であるか否かは、児童相談所長が判定する。この判定に際しては、児童相談所長の求めに対して、県福祉保健部関係の医師(保健所医師、障害福祉課関係医師)が協力する。
3 医師は、診断を確定して(暫定診断して)治療に動くことが日常である。
よって、医師は“疑い”の段階で、通告(連絡・通報)することに不慣れである特性を、児童相談所と健康福祉センター(保健所・福祉事務所)の職員が知っておく必要がある。
4 医師は、医師法を遵守している。即ち、診療を通じて得られた内容は、患者・保護者以外には、患者・保護者の了解なくして漏らさないことを体得している。子どもの虐待関連での通告(連絡・通報)は、患者・保護者の同意を得ないでのことであり、極めて例外的なことを求めることになる。この事実に共感して、マニュアル(文章)を作製する。
5 その他
鳥取県版ゆえに、県福祉保健部関連の医師も、医療・福祉圏域の相談窓口に組み込むことを提案している。医師相互ゆえの通告(連絡・相談)側への「安心」が提供されよう。
鳥取県の医療・福祉圏域は、東部2・中部・西部2の5つに区分している。各々のネットワーク図では、医療機関からの通告先の骨格を以下に設定している。
a)事例に虐待の可能性が高かったり、事件性があることが察知できた際 → 児童相談所
b)育児過誤・育児混乱に相当する例 → 健康福祉センター(保健所・福祉事務所)
c)臨床医に相談したい例 → 東部は小生、他地域は調整中である。
さらに、事例が子ども虐待であり、関係諸機関の連携が必要な場合は、児童相談所長が責任をもってネットワーク会議を開催することになる。要請のあった場合には、これに協力することもあり得よう。
子どもの虐待とは?
以下は、小児科以外の臨床医を考慮して要約したものである。
● 保護者が、子どもの心身の成長・発達に傷害を及ぼす言動をした場合が虐待です。
● 保護者の育児方針は定義に含まれません。保護者の「愛情をもってやった」「しつけだった」という言い分は、虐待を否定する論拠になりません。
● 子どもが結果としてどうなったかの視点でとらえます。
● 虐待防止対策の本質は、より早期に、保護者の育児支援を図ることにあります。
● 子ども虐待に関するハイリスク要因として、下記の諸項目があります。
養育者が一定でない 両親の離婚・連れ子 経済的困窮 地域で孤立している家族
20歳未満の親からの出生 親の精神疾患 親が虐待を受けた既往
早期産低出生体重児(とくに、1,000g未満や1,500g未満) 多胎児
成長発達が遅滞している例 先天異常など、障害のある例
子ども虐待の分類
子ども虐待(child abuse:child maltreatment)は、4つに分類されます。実際の虐待事例においては、明確に分けられず重なり合っている場合が多々あります。
(1)身体的虐待
● 不可解な外傷(→ 被虐待児症候群 battered child syndrome)
多くの外傷痕、多数の皮下出血、指や紐の跡と思われる挫傷、説明し難い火傷・熱傷・外傷
不自然な硬膜下血腫、頭蓋骨骨折 長管骨の新旧の骨折 眼球損傷、網膜出血
回復または受傷段階の異なる多数の傷
● 木に縛りつけたり、寒い戸外に出して何時間も家に入れない、熱い風呂に無理やり入浴させるなどで身体障害を来した場合は、直接的な暴行でなくても虐待です。
● あやそうとする方法が適切でなかった結果、頭蓋内出血などを来す揺さぶられっ子症候群は虐待に含められます。
● 無理心中も含まれます。この場合、子どもの親も命を失うわけですが、親がいかなる考えであったかはともかく、子どもの命を奪う殺人であり、虐待です。
★ 医療機関への受診
被服部を含め、全身所見をみることが出来るのは医療機関の特性です。
医療機関を受診する動機の多くは、保護者が予期しなかった外傷の発生や、子どもがぐったりしたとかの急変です。
※ 子どもを診察する場合には、常に「子どもの虐待」ないし「不適切な育児」が背景にある可能性を疑うことは決して無駄ではありません。
※ 虐待を示唆する病歴上の特徴
1)外傷等の病歴を保護者が話したがらない。
2)外傷等の見た目の回復段階と病歴が一致しない。病歴が情報源により異なる
3)外傷等の病歴が、発達段階からした子どもの能力と矛盾する。
4)外傷等の重症度に対する親の不適切な反応がうかがえる。
5)外傷等の受診が遅い。
※ 保護者や子ども本人が否定しても虐待のことがあります。
虐待の早期発見のためには、保護者の訴える病状経過の不自然さを見逃さないことです。
保護者が「しつけだ」と主張しても虐待を否定する根拠にはなりません。
※ 揺さぶられっ子症候群:shaken babe syndrome:新生児~乳児を“あやす”場合、顔を見つめて、ゆっくりと上下左右に“ゆらゆら”させます。が、あやした体験のない親などが強く揺さぶった結果、児に硬膜下出血・クモ膜下出血や眼底(網膜)出血を来すことがあります。よって、乳児が痙攣発作や顔面蒼白など、急変して受診した際には、本症を鑑別する必要があります。
(2)ネグレクト(養育放棄 neglect)
以下の場合は、各々ネグレクトです。親・保護者の言い分がどうあれ、子どもに不利益・心身の成長・発達障害、身体障害・後遺症や発育障害を来したり、致死に至る場合はネグレクトです。
● 車の中に子どもを放置して熱中症や死に至った場合
● 病気の子どもに適切な対応をせず、医療機関を受診させない場合
● 食事を与えない・入浴をさせない・服を着替えさせないなどの場合
★ 医療機関への受診
医療機関への受診がネグレクトの発見の機会になり得ます。急変したり、重篤な場合は、救急車での受診もあり得ましょう。
※ 不定愁訴を訴えて受診を繰り返す例や心身症と診断される例の背景に、或いは、LDやADHDと診断し得る例の背景にネグレクトがあり得ます。
※ 不登校、成績の低下、友人関係の拙さ、問題行動の背景に、ネグレクトがあり得ます。
※ 発育不全を伴う発達遅滞の背景に、ネグレクトがあり得ます。
成長障害や心身の発達障害がネグレクトに由来していることを見逃さないようにすることが肝要です。
※ ネグレクトをネグレクトしないこと:虐待の放置もネグレクト
虐待の可能性を察知しながら、児童相談所等の調整機関に通告(連絡・通報)しないのもネグレクトといえます。
(虐待の相談を受けた調整機関の専門職が介入を怠るのもネグレクト!)
(3)性的虐待:性的な行為の強要
性的虐待の特徴は、本人が申し出ることが少なく、潜在している事例が多くあることです。また、幼少児の場合は、不自然な外傷で発見させることがあります。
● 子どもへの性的ないたずら、性的な行為の強要、性的暴力など ● 未成年の妊娠
● 性器や性交、ポルノグラフィーを見せたり、ポルノグラフィーの被写体にすること
★ 医療機関への受診
医療機関には、外性器の外傷、未成年の妊娠等での受診例があり得ます。
○ 特異的な所見として、性感染症および性器や肛門周囲の疼痛、発赤、腫脹、分泌物、異臭、傷、出血や腟炎の反復、排尿時痛などがあります。
○ 非特異的所見として、歩行や着座の困難、繰り返す腹痛、下肢・腰部痛、骨盤痛や過敏、恐れ、不眠などがあります。
(4)心理的虐待:言葉による攻撃や拒否
● 保護者から、慢性的に繰り返される否定的な言葉かけや拒否・無視の態度が持続する状況が該当します。きょうだい間で著しく差別をすること、例えば「汚い」「いない方が良い」「死んでしまえ」などを繰り返し言う場合がそうです。
● 子どもの訴える症状・所見は多様です。
子どもらしさの欠如、おびえ、無気力 失禁、遺糞 頭痛、繰り返す腹痛 不潔
虚言、盗癖 べたべたする、落ち着きのなさ 過度の肥満、過食 不器用
★ 医療機関への受診
医療機関を受診する場合、多様な症状・所見を呈するでしょう。
このタイプは虐待に含めるべきか否かの判断が難しい例がありますが、子育て支援の観点からは、是非連絡してください。
子どもの状態は、身体外傷を伴いませんが、ネグレクトと同様で多彩です。
(付)留意事項
● 子どもの虐待は、多様かつ広範囲に及び、程度も実に様々です。
米国では、子ども虐待は child abuse や child maltreatment であり、neglect も含められています。
わが国では、身体的な虐待を捉えた battered child syndrome が被虐待児症候群と和訳されて紹介されたことで、育児過誤に相当する maltreatment や 育児放棄 neglect の概念が child abuse に含まれるとの理解が希薄でした。
とくに、育児過誤の範疇に入る場合には、“虐待”の用語で示すのには限界があります。否定的なイメージが強い和訳の“虐待”の用語を変えたい願いがありますが、法律でも採用されている専門用語であり、本マニュアルでも用いています。
虐待の重症度判定基準
1 生命の危険あり
★ 対処:医療機関受診例では救急入院対応が必須です。
子どもの安全確保・医療の実施に努めると共に、児童相談所へ速やかに通告します。状況によっては警察にも110番通報します。
1-1)身体的暴行(虐待)により、生命の危険がありうる外傷を受ける可能性があるもの
<行 動>
(1).頭部外傷をおこす可能性がある暴力:乳幼児を投げる。頭部を殴る。逆さに落とす。
(2)腹部の外傷をおこす可能性がある暴力:腹部を蹴る。踏みつける。殴る。
(3)窒息する可能性がある暴力:首を締める。鼻と口を塞ぐ。布団蒸しにする。水につける。
<状 況>
(4)乳幼児の親が「殺したい」・「自分がカーッとなって何をするか怖い」など、自己制御がきかないことを訴える。
(5)親子心中や子どもの殺害を親が考えている。
(6)過去に生命の危険がある虐待歴があり、再発の可能性がある。
1-2)ケアの不足(ネグレクト)のために死亡する可能性がある:乳幼児が衰弱しているのに、医療の受診なく放置されており、生命の危険がある。死亡原因としては肺炎、敗血症、脱水症、突然死、事故死などが考えられる。
棄児・置き去り児も該当する。
2 重度虐待
今すぐには生命の危険はないと考えられるが、子どもの健康や成長発達に重要な影響が生じているか、生じる可能性があるもの。
★ 対処:医療機関受診時は、子どもの安全確保のために、治療ないし病態精査目的での入院とするることが望ましいです。かつ、児童相談所など調整機関への速やかな連絡・通報が必須です。
● 1)医療を必要とする不可解な外傷があるか、近過去にあったもの。
例:*乳児や歩けない幼児で打撲傷がある。
*骨折・裂傷。目の外傷がある。熱湯や熱源による広範囲の火傷。
● 2)成長障害や発達遅滞が顕著である。
● 3)生存に必要な食事、衣類、住居が与えられていない。
● 4)明らかな性行為がある。
● 5)家から出してもらえない(学校にも生かせてもらえない)、一室に閉じ込められている。
● 6)子どもへのサディスティックな行為(親は楽しんでいる)。
3 中等度虐待
今は入院を要するほどの外傷や栄養障害はないが、長期に見ると子どもの人格形成に重い問題を残すことが危惧されるもの。誰かの援助介入がないと、自然経過ではこれ以上の改善が見込めないもの。
★ 対処:医療機関受診時は、調整機関への連絡・通報が必須です。
● 1)今まで慢性にあざや傷痕(タバコ等)ができるような暴力を受けていたり、長期にわたって身体ケアや情緒ケアをうけていないために、人格形成に問題が残りそうであるもの。
● 2)現在の虐待そのものが軽度であっても、生活環境などの育児条件が極度に不良なために、自然経過での改善がありそうもなく、今後の虐待の増強や人格形成が危惧されるもの。
例:* 養母が子どもをひどく嫌っている。
* 虐待や養育拒否で施設入所した子どもの再発。
* 多問題家族などで家庭の秩序がない。
* 経済状態が食事にも困る生活の中でのもの。
* 夫婦関係が険悪で子どもに反映している。
* 犯罪歴家族、被虐待歴ある親。
● 3)慢性の精神疾患があり(分裂病、うつ病、精神遅滞、社会病質、覚醒剤)、児のケアができない。
● 4)乳幼児を長時間大人の監督なく家に置いている。
4 軽度の虐待
実際に子どもへの暴力があり、親や周囲の者が虐待と感じている。しかし、一定の制御があり、一時的なものと考えられ、親子関係には重篤な病理が見られないもの。しかし、親への相談は必要である。
★ 対処:医療機関受診時は、調整機関への連絡・通報が必須です。
● 1)外傷が残るほどではない暴力
例:*乳児を叩く、カーッとなって自己制御なく叩くと自己報告する。
● 2)子どもに健康問題をおこすほどではないが、ネグレクト的である。
例:*子どもの世話が嫌で時々ミルクを与えない。
5 虐待の危惧あり
暴力やネグレクトの虐待行為はないが、「叩いてしまいそう」「世話をしたくない」などの子どもへの虐待を危惧する訴えがある。
★ 対処:医療機関受診時は、調整機関に連絡・通報します。
6 重症度判断基準:補足
例えば、以下の子どもの状況、母親及び父親等養育者の社会心理的状況、地域社会など環境要因ことなどを、判断基準の補足とし、該当項目があれば重症度を高めることになります。
1)子どもが病弱である(アトピー、未熟児)、よく泣く、手がかかる。
2)きょうだいとの年齢が接近している。きょうだいに障害がある。
3)非常に神経質な母親(精神障害とは別に)
4)育児知識が不足している。一般的に子どもの発達状況を把握できていない。
5)夫の協力や理解がない(話も聞いてくれない)。
6)近隣に話し合える人がいない(友達がいない)。→ 転居後、他の人との交友が下手。夫の実家とうまくいっていない(特にはじめての育児の場合は重視する)。
7)利用できる社会資源が乏しい。
7 不審死
検案書記載のためにも、警察への通報が必須です。その際、虐待の可能性も考えられた場合は、児童相談所にも通告してください。
医療機関の役割
◆ この疑い例は連絡する?!→ 疑い例も連絡してください。
虐待の診断や診断書は不要です。電話でOKです。
◆ 医療機関の願わしい支援は、保護者との共感的対応に徹することです。
上記は、医療機関の役割に関する要点といえる。以下に詳細に記載する。
● 医療機関は、子どもの外傷の程度や栄養状態などを、重症度・緊急度を含めて診ることが出来るため、被虐待児の発見の場として社会的に重要な役割を果たします。診療結果により、子どもの治療とともに、緊急性を含めた保護の必要性を判断する責務も有しています。
● 一方、虐待の可能性が疑われる事例に接した際に、医療者は、保護者・家族との共感関係を得る姿勢が欠かせません。つまり「これまで育児が辛かったのですね」「育児に一生懸命だったのですね」といった共感的・受容的な対応が願いとなります。
医療機関において支援を開始する場合は「育児でお困りのことがありませんか?」「育児の支援を考えたいと思うのですが」の姿勢を貫きます。
● 把握し得た状況が「虐待である」とか「虐待の可能性がある」との説明は、親・保護者と医療者との信頼関係を壊すことになりかねません。即ち、医療機関においては、保護者にマイナスイメージを強いる“虐待”の用語を用いないことが賢明でしょう。
虐待の可能性が強い場合における説明は、子どもの健やかな発育やすてきな親子関係を願うことを表明した上で、「育児が不適切である可能性を考える」「しつけのし過ぎだと思える」の表現に留めることが無難だと考えます。
虐待ないし虐待の可能性の事実を保護者に突きつけて、責任を問うような言動、こうあるべきだとの指導は行わないでください。
● 事件に至ったり、長期化・重篤化することを避けるためには、“虐待に相当するのだろうか?”とか“育児が混乱しているようだ ”と感じた早い時点で、育児支援を開始することが必要です。
多様な例を、児童相談所をはじめとした関係機関に速やかに通告(連絡・通報)する義務が医療者にあります。
● 結果的に虐待でなかったとしても、通告した医療者には責任が生じませんし、患者・医療者関係が損なわれることもありません。
児童相談所側が“虐待”に該当するか否かを決定します。医療機関には、虐待の可能性を見逃さないで通告することが求められています。
● お寄せいただいた情報の守秘は厳格に守ります。
医療機関相互の連携:診療所と病院の連携
● 虐待が明らかな場合は、子どもを救急入院として、保護することを検討してください。
● 診療所を受診された例では、病診連携を活かして、病院側に入院を依頼してください。
● 判断に迷われる場合は、各地域の担当医師に相談することが出来ます。
● 診療所・病院の医師・関係者は、児童相談所に速やかに連絡してください。
● 診察所見により虐待の可能性が疑われた場合は、まず、通告(連絡・通報)します。育児支援に関わる関係者が早急に対応を開始することにより、その後の(重篤な)事態が防げるかもしれません。結果的に、子どもを救い、保護者を救うことになります。
通告をためらってしまったことで、虐待行為が長期化しますと、子どものみならず、保護者にとっても、重篤な改善困難な事態に陥るかもしれません。
! 虐待であるかどうかの結果・診断はともかく、“虐待の可能性”が考えられた場合には、これを連絡・通報(通告)する義務が医療者に課せられていることをご承知ください。
● あなたの判断で、子どもも保護者も救われる可能性があります。
インシデントレポートとの関連性
病院の医療事故防止対策委員会の責任を担っている立場から、インシデントレポートの扱いと子ども虐待の通告のあり方に関連性を見出している。
以下に、当院の医療事故防止マニュアルの一部と解説([注→・・・]の記述)を示す。
5-4 インシデント・レポート
インシデント(incident 重大事件に発展する危険性をもつ付随事件、小事件)は、医療事故(アクシデント accident 偶然または不慮のよくない出来事、事故、災難)との関連で用いられるが、明解な定義はない。
インシデントは、本マニュアルでは、「患者に傷害を及ぼすことはなかったが、日常診療の現場で“ヒヤリ”としたり、“ハッ”とした経験」と定義し用いている。[注→ 子ども虐待の疑い・育児過誤・保護者に意識がなかったが実態は虐待・ネグレクトだった例]
インシデントは、医療事故[注→ 事件性のある子ども虐待:子どもには心身の後遺症が残る]につながり得る可能性を有しており、これらを収集する報告書がインシデント・レポート[注→ 疑い例であっても連絡・相談・通報(通告)してもらう社会的システム:インシデントレポートと同様、“誰が”通報したかに関しては問わないで、守秘性を守ること]である。
“ヒヤリ”としたり、“ハッと”した体験をした場合、これを報告することは、安全な医療を患者に提供し、安全な職場を造る上で、即ち、医療事故防止対策における職員の責務[注→ 安全な社会システムを構築する上での医療機関の責務]である。
インシデント・レポートの記載と提出においては、個人[注→ 連絡・通報した医師さらに県民]の責任が問われることは決してない。また、所属部長・部所長は、さらには、病院長[注→ 児相長・関係諸機関の公務員]は、インシデント・レポートを報告した職員の守秘に徹する責任を有している。
患者・家族に関わるインシデントがトラブル(trouble 骨折り・苦心・困難・苦労(の種)・めんどうな事・困ったこと・具合の悪い点・問題点)となり、医療事故に変質することがある。即ち、インシデントの対応の拙さなどが誘因となって、患者・家族と職員関係の悪化により、病院の責任が問われる事情に変化すると、医療事故に転化し得る。それは不十分なインフォームド・コンセント、職員の保身的発言や失言・暴言に基づく信頼関係の破綻が関与する場合であり、患者・家族に関わるインシデント発生時は、とくに丁寧な対処が必要である。[注→ 虐待の可能性が考えられる例では、これを速やかに連絡すると共に、丁寧かつ速やかな対応が必要である。]
おわりに
直面した事例を電話するに際して、法的な用語である「通告」や「虐待」に抵抗感があることから、前者は「連絡・通報」、後者は「SOS」として、具体的な連絡先や、伝えるべき情報などをマニュアルに盛り込む計画にある。虐待を捉える上での重症度、児童相談所や保健所・福祉相談センターの機能、その他の関連情報も盛り込むことになる。
引用文献等
● 事例から学ぶ虐待防止ネットワーク 医療機関用子どもの虐待防止マニュアル 名古屋市児童福祉センター 平成12年11月27日発行
● 医療機関用子どもの虐待防止マニュアル 愛知県 平成12年12月発行
● 子どもの虐待防止センター(CCAP)ホームページ
● 東京都マニュアル ホームページ情報
2001年8月24日記 文責:大谷恭一
■ 本稿の内容は、鳥取県の〔<医療・保健機関編> 子どもSOS対応マニュアル~子ども虐待の防止に向けて~〕
(平成14年3月発行/鳥取県福祉保健部健康対策課編集・発行)に活かされています。本誌では小生は監修者扱いです。
■ 私事、法に基づいて発足した鳥取市の児童虐待防止協議会の初代会長職を任じられ、智頭に異動後も継続し、計5年間。智頭町にも同子どもを守るネットワーク協議会が発足し、これも初代からの会長で現在に至っています。
(智頭に力点を置く観点から、鳥取市にはお願いし、辞することになるまでの会長職 5年間でした。)
今日、わが国では児童数の減少が続く状況にあって、児童虐待に係る通告件数が急増し、子どもの被害が減る兆候は皆無です。
多種多様な要因があって、生活困窮に追い込まれている家族、(例外的な事件被害を除き、間違いなく愛が育まれて)子どもに恵まれた夫婦の離婚率の上昇と(:離婚の結果、わが国では、脆弱な社会関係性や経済困難などで)虐待に追い込まれたであろう子どもたちなどナド・・・。
スマホの普及に伴うオンラインゲームやSNSなどでの生活面や人の関係性におかる狭隘化・貧弱化、かつまた、24時間営業のコンビニに象徴されるように、好む・好まないに関わらず、社会生活の多様性は、子どもの育ちの環境にひずみをもたらしています。それらがコントロールできない親と、それを見て育つ子ども・・・。子どもの育ちに関わる関係者は、即ち、保健師、保育士、学校教師などは、メディアリテラシー(:個々の生活・家庭でのメディア制御・統制・管理力)が高まることを願い啓発活動を続けますが、一方、麻薬に例えられるスマホの利便性・ゲーム等に侵された思春期から若い大人たちの状況にあって、子どもたちの生育環境・成育過程は、交差点の赤信号を突っ走るがごとくの危機的状況にあると認識することも過ちではない現況にあります。
また、ミヒャエル・エンデが約40年前に[モモ]を通じて警鐘を鳴らした現代社会の危機が一層高まっているとの理解をしています。
結果、子どもにとって、衣食住環境・教育環境など、家庭力の差の拡大、相対的貧困率の増加・・・
昼休憩オワリ:しばし思考中断 (2018/ 9/14 記)