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教育時報〔平成3年3月〕鳥取県教育委員会発行

​​『教育の眼』 

障害児に学ぶ

 

 大戦後の日本は、精神的規範を見失ったまま経済成長を追い求めてきたようだ。経済超大国となった今、モノが豊かになり、科学の進歩もあって、生活は便利になった。が、人間性の質はどうであろうか。「地球に生きる日本人」を指向した観点から、乳児期を含め、子どもたちが育つ環境はどうであろうか。何のための経済的繁栄なのか、発想転換と取り組みは急務と思う。


 近年、経済活動やレジャーなど、日本人が日本を離れる機会が急増したが、結果的には世界における日本人の資質が大きく問われることとなった。大は国家、企業としての対応、小は団体旅行の際の個々のかかわり方が問題となっている。また、国内でどのような価値観で、生活し、言動できているかが問われる。いかなる日本人に、どのような「生き生き鳥取人」になろうとするのか。


 われわれは生命科学の進歩、医学の進歩から多くを学んだ。小生は新生児医療に携わり、奇形など先天異常のある児とその家族に接し、また、脳性麻痺など脳障害児と触れ合う日常にある。われわれ人間が誕生に至るまでの過程は、受精にはじまり、分裂を繰り返し、各細胞が互いに機能を分化し、かつ統合していく過程であるが、とにかく、一個の受精卵にはじまり数兆にも細胞が増えて、誕生に至る。その事実はあまりにも神秘的であり、障害無くして多くが出生することに驚嘆を覚える。一方、障害のある子どもたちは、われわれがひょっとしたら障害を有したかも知れないという事実を、自らの体でもって教えている。そしてわれわれは、心臓や消化管など、意志にかかわらず機能してくれる臓器があってこそ命が維持できていると知っている。


 また、使い捨て全盛の今日、日本人一人ひとりが日常的に環境破壊に加担している事実を学習し、対応することも重要な責務といえる。大は地球や生態系の生命を意識し、小はわれわれ個々の命、体の器官の命を意識し、感謝して歩むことに始まる。これは古今東西普遍的な在り方で、われわれは「生きている、生かされている」との思いを新たにする。
 

 障害を正しく理解すること、それは自らをより良く知ることでもあり、生涯教育において欠かせない視点と考える。生かされていることに感謝し、自らの健康を増進し、その上で人生を歩みたい。そのことが、障害が無いものの責務でもある。「生き生き鳥取っ子」育成の要点は、子育ての方法論以前に、まずは子どもたちを取り巻くわれわれ大人が生き生きと、自らを高めるべく、強く、豊かに生活しているかにある。
 

 生かされていることに対する感謝は、動植物の、また、他国の人々への理解と思いやりに展開する。今や、地球人としていかにあるべき県民こぞって論議を重ね、「生き生き鳥取人」となり「生き生き鳥取っ子」を育成する。それは21世紀につながる「鳥取発われら地球人運動」であり、平成における文化維新へと夢が広がる。

平成3年3月 (2011年4月19日up) 

鳥取県立鳥取療育園 園長
県生涯学習推進協議会委員

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資料を整理していたら、本原稿がありました。記載した当時から20年余が経過した今、とくに、今年3月11日に東日本大震災を経験した私たち日本人にとって、新たな価値観の創設・ライフスタイルの見直しが必須な状況にあります。

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